二年前、六十二歳で父が亡くなった。
突然、救急車で運ばれ、病院のICUで、数日の命と言われた。
体中に管を付け、呼吸器を付け、言葉を出せない父が、唯一私たちに応えてくれた反応は、手のぬくもりだけだった。
「おとうさん」と声を掛け、手を握ると、ゆるやかではあるが握り返してくれた。私の幼い息子が声を掛けると、自分から手を差し出し、弱々しく笑った。
幼い頃にこの大きな手をつないで歩いたこと、手のぬくもりや、つないだ手の安心感、父との懐かしい思い出が、そんな極限の状態の中で、いっきに溢れる。
何年ぶりだろう、三十六歳になって、父の手を何度も何度も、握る。その手はやっぱり温かく、大きい。生きている父の手だった。
気がつくと、いつも母か妹、誰かが父のそばで手を握っていた。きっと父の手のぬくもりを通して、父が生きていること、その死を覚悟すること、これまでの思い出、そして家族であることを、自分たちなりに確認していたのだと思う。
父はもういない。でも今は手のかわりに、心でつながっている。あの大きな手のぬくもりが、いつまでも心の中にあるように、いつまでもいつまでも私たちはつながっている。
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ユーザーからのコメント
○私の父も四年前癌で亡くなりました。同じ時期に私も病気で入院していて父は自分の病気の方が大変なのにも関わらず、見舞いに来てくれ手を握って「おまえは生きろよ!」と言ってくれました。その時の大きな暖かい手の感触は私に取ってとても大切な忘れられない思い出です(by
あやすけ)
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